『教育実習』(16)儀式

小学校の教育実習に来ている谷は、大学生という若さと好青年なルックス、そして、桁外れた股間のもっこり具合とのアンバランス差が誰をも魅力し、クラスの人気者となっていたが、それが故に一部のコアな層からの並々ならぬ歓迎式典の数々に、欲望と本来持っていた自分の中にある秘めたる想いとの裏腹な交錯に戸惑いながらも、様々な思い出を胸に、いよいよ最終日の授業の日を迎えた。

最後は笑って、という爽やかな最終日にしようと決めてい谷はいつもと変わらず賑やかな生徒たちに囲まれながら、最後の授業はプールの時間となった。

そんな中、変態な悪知恵ばかりを考えている教頭と、谷のクラスの悪戯小僧の佐々木は、最後の儀式を行うべく、この日の為に、着々と、念入りに準備を重ねていたことを、谷は知る由もなかった。

なぜなら、あんなに連日性的な悪戯ばかりを繰り返してきた淫乱一家の佐々木と教頭は、ここ数日は谷先生と距離を置き、何もない日が続いたからだ。

どうせ、もう飽きたか、他の獲物が見つかったんだろうと、ほっとしている反面、内心、どこか、何かを忘れ物しているようなそんな虚無感さえ感じているのを、谷はぐっと我慢して思い出したり、考えない様に女子生徒と戯れたりしながら最後の授業に向かった。

谷先生と一緒に楽しむプールの授業も、終始、これといって何事もなく最後のチャイムが鳴った。

そこで、今日で谷先生とのお別れだということで、クラスの担任の三国先生が笛を吹き、全員をプールサイドへ集めた。


生徒みんなの見守る中、最後の挨拶を終えた谷は、少し瞳に水分を多めに蓄えながらも、終始笑顔で生徒への礼と別れを告げた。
その時、クラスでも悪ガキ大将の佐々木が、担任に向かって手を挙げた。

「先生!!谷先生とは今日でお別れだし、最後の授業だから、俺ら男子生徒は先生と片付け手伝って帰ってもいいですか?」

と、提案した。

担任の三国は明日からの保護者会の準備で忙しく、できれば片付けを誰かに頼みたいくらいだったし、後は帰るだけなら、谷先生に任せて、多少遊んでから帰るのもいいだろうと、提案を受け入れた。

「遅くならないうちに帰るんだぞ!!先生に迷惑かけない様、しっかり言う事聞くか?」
と、尋ねると、男子生徒は全員大声でハイ!!と叫んだ。

女子生徒は次々に谷の前に来ると握手をして、みな照れる様に走り去って行った。
残った男子生徒は、片付け用具が入ったリヤカーのような台車をプール奥の倉庫から、よいしょよいしょと、重たそうに運んで来ているのが見えた。

「すまん!すまん!ありがとな!!」と、谷は生徒らの元へ駆け寄ると、水捌けでプールサイドを掃除していた生徒に足を引っ掛けられて、バランスを崩した谷はプールへ飛び落ちてしまった。

バシャ!!と大きな水飛沫を浴びて、飛び込む事になった谷を、待ち構えていたかのように、プール内を網で清掃に入っていた生徒が、わざと谷の足元を掬うようにして、引っ掛け、突いてくるので、まっすぐ立てずに、暴れるようにジタバタさせているところを、深く潜り込んだクラスで一番大柄のマサルが谷先生の背中を押して、まるで谷を胴上げするかのように、プールへ飛び込む男子生徒全員で担ぎ上げられて、待ってましたと佐々木達の操るリヤカー目掛けて、谷を投げ入れた。

リヤカーは、家の風呂の湯船より少し小さいくらいの大きさで、勢いよく投げ入れられた衝撃で怪我しない様、マットが何重にも敷かれていて、クッションの様になっている台車へ、大きく仰向けに大の字になって放り投げられた。

あまりの突然の出来事でパニックな谷は、晴れ渡り蝉の鳴く夏空を目の前に、カンカン照りの太陽が眩しくて、一気に目を瞑った。

その時だった。

手足を四方に放り投げた状態でいたもんだから、その無防備な手足をいつも女子生徒が校庭脇で遊んでるピンクの縄跳びで、一気に台車の車輪と手摺りに括り付けられてしまった。

「おいおい!!何するんだよ!!離せよ!こら!!」と、少し笑いながら、冗談だろ、よせよと、遊びの一環だろうと軽めに考えていた谷へ、最後の儀式がはじまった。

「先生、今日でお別れなの寂しいから、俺らになんか記念というか、思い出の品くださいよ!」と、捻くれた声で佐々木が谷の耳元を濡らした。

「は?、何が欲しいんだよ、俺なんも持って、」というと、小柄な生徒が谷の上に跨り、首にかけていた笛を吹いた。ピーーー!と鳴り響く音が校庭中に響いた。

ダメだ!!これだと暴れているのがバレて、三国先生か教頭がすっ飛んで来てしまうと感じた谷は、すぐに

「わかった!!わかった!!わかったから、静かにしろよ!」と、制した。

すると、今度は、その笛と水泳帽を佐々木の口に突っ込んで、少しでも叫んだり声を出したら、笛が鳴るように仕込まれた。

「やっと大人しくなったね、先生。」

と、佐々木。イヤイヤするように左右に首を振るが、他の生徒が佐々木の両脇の隙間に入ってバスタオルで顔を隠す様にして押さえ込んだ。
すると、ミーーーンミーーーーンと、遠くで激しく鳴いていた蝉が、すぐ耳元で鳴く気がした。

しかも、何匹も居る。

「イキのいいやつ、とっ捕まえて来たで、先生にプレゼントしますね。」

と、それは、明らかに聞き覚えのある老人の声。


そう、教頭の声だった。